大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)553号 判決 1982年9月10日

上告人

柴田三郎

上告人

三浦日吉

被上告人

小岩自動車鈑金有限会社

右代表者

平野トキエ

右訴訟代理人

伊沢英造

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人らの上告理由について

原審は、(1) 本件土地はもと被上告人の所有であつたところ、西武信用組合が本件土地に有限会社千越に対する三〇〇〇万円の債権の根抵当権を有するとして、昭和五二年四月千葉地方裁判所松戸支部に競売の申立をしたこと、(2) 右競売手続において、昭和五三年一二月二六日上告人両名を競落人とする競落許可決定が言い渡され、被上告人はこれに対し東京高等裁判所に即時抗告したが、同五四年一月二四日右抗告棄却の決定があり、右競落許可決定は確定したこと、(3) 被上告人は、同年二月二二日浦和地方裁判所川越支部から本件競売手続停止の仮処分決定を得、同日千葉地方裁判所松戸支部に対しその正体を提出して本件競売手続の停止を求めたこと、(4) しかるに、右松戸支部は、競落代金支払期日を指定し、上告人らから同年六月六日ころ競落代金全額の納付を受けたので、千葉地方法務局流山出張所右同日受付第九〇八三号をもつて上告人らのために本件土地につき共有持分を各二分の一として所有権移転登記を経由したこと、を認定したうえ、競売法に基づく競売手続において、担保不動産の所有者から競売裁判所にその競売手続の停止を命ずる仮処分決定の正本が提出されたときには、競売手続が完結していない限り、裁判所は競売手続を停止すべきであつて、競落代金支払期日の指定をすべきではなく、また、競落代金を受領すべきものではないから、右仮処分決定に違反して指定された代金支払期日に競落代金が納付されても、競落不動産の所有権は競落人に移転するものではないと判断し、被上告人の本訴請求を認容した。

しかしながら、抵当権の実行による競売手続においては、競落許可決定が確定したのちであつても、競落手続の停止を命ずる旨の仮処分決定の正本が仮処分債権者から提出されたときは、競売裁判所は、競売手続が完結していない限り、じごの競売手続を停止すべきであるが、それにもかかわらず、競売裁判所が右措置に出ることなく競売手続を続行し、競落代金支払期日の指定、その納付の手続を経て、競落による所有権移転登記が完了した場合には、右仮処分債権者は、もはやその競売手続の違法を主張して競落人の競落による所有権の取得を否定することができないものと解するのが相当である。そうすると、これと異なる見解に立ち、上告人らが競落により本件土地の所有権を取得することができないとした原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、根抵当権設定契約の成否、被担保債権の存否等についてさらに審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(木下忠良 鹽野宜慶 宮﨑梧一 大橋進)

上告人らの上告理由

一、千葉地方裁判所松戸支部においてはその事実を誤認しており又

二、東京高等裁判所においてはその事実を誤認するばかりでなく千葉地方裁判所松戸支部昭和五四年(モ)第三七一号不動産仮処分異議事件の控訴審昭和五四年(ネ)第三〇八〇号不動産仮処分異議事件とまるで異なる正反対の判決を下している

上告趣意

一、昭和五三年十二月二十一日上告人等は千葉地方裁判所松戸支部内競売場において同庁昭和五二年(ケ)第四四号競売物件住所千葉県流山市西平井四〇二―二の他七筆の土地を競落した同年十二月二十六日競落決定通知を受け取りました

競落日に競落代金の一部一割を収め競落決定通知日より一ケ月以内に残金を支払う様指示され競落代金、残金納入通知書をまつておりましたが通知がなく松戸裁判所競売係窓口の書記官の所に行きましたら本件競売に対し有限会社小岩自動車鈑金より昭和五三年十二月二十七日に即時抗告の申立が有り東京高裁昭和五三年(ラ)一三九三号事件として扱われており残金納入通知の通告が少し遅くなるとの話しでした。その後上告人等の所に昭和五四年五月中頃競落代金残金納入通知が届き同年六月六日残金納入し松戸裁判所の委託により法務局流山出張所において上告人等の名儀にされたが同年六月一六日千葉地方裁判所松戸支部第九六一六号仮処分事件として競落物件土地の内一部をのぞいて仮処分がかけられた。しかし競落物件土地の内の一部流山市西平井四〇二〜二と四〇二〜十九番地の土地については仮処分の対象から外されていた。

二、上告人等は本件土地を競売において競落するに至るには個々異る事情が有りましたが自分達の住居の一部が競売物件の土地であつた事と競売物件の土地の一部が不動産屋小岩自動車鈑金との間において売買契約が結ばれていた事の為に競落した次第です。

その為競落代金、残金納入後二人で住居とする土地を分ける必要が有りましたので合筆と分筆を行いました。分筆した一部新番地については前記前述の通り仮処分の対象から外されていた次第です。

三、昭和五四年六月六日競落代金、残金納入後上告人の一人柴田三郎が競落土地の内仮処分の対象から外されている土地流山市西平井四〇二〜十九の上に住居を建てました建てるにおいて二筆をのぞいて仮処分がかけられておりましたので競売裁判所窓口の競売係の書記官の所に競落した土地の内仮処分から外されている土地に家を建てる事が不法になるのか又一切問題がないのか説明を受けに行き法律的に問題ないとの返事を受け建物を建てた次第です。

四、上告人等は裁判所内競売場において競落した土地に対し仮処分がかけられる事に怒りを覚え仮処分を申立た者に対し昭和五四年七月初め頃仮処分異議事件と起訴命令の申立による裁判を求めたのが今回の上告審であります。

本件競売競落の経過

一、昭和五三年一二月二一日競落日

二、同年一二月二六日競落決定日

三、同年一二月二七日即時抗告の申立

四、昭和五四年一月二四日即時抗告棄却決定

五、前記事情により競落確定

六、同年一月三〇日特別抗告

七、同年二月二二日競売手続停止の仮処分決定(浦和地方裁判所川越支部)

八、同年四月九日特別抗告却下

九、同年五月競落代金残金支払命令

十、同年六月六日競落代金残金納入

上告趣旨

一、競落決定又競落確定したる後に競売手続停止決定を求める行為は違法行為である

二、本件競売裁判確定判決後に異議又裁判を求める行為も違法であると思う

三、昭和五四年(ワ)第二八六号所有権移転登記抹消等請求事件松戸裁判所判決は誤審、誤判決もはなはだしい

(一) 理由中内一、ところで任意競売手続の進行中競売手続の停止を求めてこれが停止を認める決定正本が執行裁判所に提出されたときは執行裁判所としては以後の手続を停止しなければならないから右正本が競落許可決定後その代金支払前に提出されればその後の手続である競落代金の受領をすべきでない事になり右停止決定に違反して競落代金が納入されたからといつて右納入は何らの効力を生じるものでもなくこれにより競落不動産の所有権が競落人に移転する事はないと解すべきであると記されているが大きな間違い誤審である。

(1) 競売手続の進行中とあるが競売は昭和五四年一月二四日確定している(競落確定)。

(2) 競売法においては競落決定確定日より一ケ月以内に競落代金、残金の支払通知をなし支払通知日より一ケ月以内に支払いなき場合(法の手続により遅れる理由を明確にする)は再競売にすると記されている。

即時抗告により意図的に期日をのばしその理由の提出もしないで即時抗告棄却された。

即時抗告棄却された。日が競売手続が確定競落が確定したる、後に競売停止の決定を得ても仕方のない事と断ずべきだと思う

(二) 判決文中主文内三、この判決は第一項2の明渡しを求める部分につき仮に執行することができると記されているが上告人においては松戸裁判所は間違いを犯していない(本件競売において)と思うので上告人の所有名義になつた土地に建てた建物。とくに現在も尚仮処分の対象にもなつていない土地の上に建てた住宅を法でもつて収去命令を出す様な事になればこれは明らかに日本国憲法第二九条第一項に違反する行為である

四、仮に判決文の通り松戸裁判所が競売進行中に競売停止の仮処分決定を無視してなされた行為であつたとしても上告人等第三者に過失又罪が無い以上。本件競売申立人と元地主の裁判の結果を待つて対処すべき事と思う上告人が本件競売により受けた損害を請求する相手がまず第一に確定してない事実

(一) 現在松戸裁判所において昭和五四年(ワ)第三一四号事件として競売申立人と被上告人との間で本件競売事件の裁判をやつている。

(二) 本件競落土地に対し松戸裁判所は明け渡しを求める行為、建物収去命令申請にもとづく決定を行つている。

五、一、昭和五四年(ネ)第三〇八〇号不動産仮処分異議控訴事件(原審・千葉地方裁判所松戸支部昭和五四年(モ)第三七一号)判決において

判決理由中二、三の部分について

二、本件土地の任意競売手続に於ては競落許可決定確定後に右手続の停止を命ずる旨の仮処分決定正本が競売裁判所に提出されたが同裁判所は手続を停止することなく進行し競落人である控訴人らが競落代金の支払を完了し所有権移転登記がなされたこと又被控訴人は競売裁判所が手続を進めたことについて執行方法の異議を以て争う事はしなかつた事が明らかである。

三、ところで競落許可決定確定後に競売手続の停止を命ずる仮処分決定の正本が提出された時は競売裁判所は競落代金を受領すべきでないからこれが納付があつてもその効力を生ぜず、従つて、競落物件の所有権は競落人に移転しないとの見解があるが当裁判所はこれに左袒し得ない。けだし競売手続停止の仮処分決定を得た者は、民訴法五五〇条、五五一条の準用によりその正本を競売裁判所に提出して競売手続の停止を求めるべきであり競売裁判所がそれにもかゝわらず手続を停止しない時(尤も競落許可決定確定後において手続の停止をなし得るか否かについては論議があるがこの点は暫く措く)、執行方法の異議を以て手続の停止を求めるべきであり単に仮処分決定が為されたこと又はその正本の提出があつたことだけで、当然に競売手続が停止されるいわれはないのみならず既に所有権移転登記がなされた後においてもはや手続の違法を主張してその効力を争う余地もないものと解すべきであるからである。従つて本件競売手続を停止する旨の仮処分決定がなされその正本が競売裁判所に提出された一事を以て前記二の経緯により控訴人らが本件土地の所有権を取得したことを否定することは出来ない

と本件判決と異なる判断をしている。

六、証拠として

本件競落物件土地につき現在尚仮処分の対象となつてない登記簿の謄本一通と写し六通、仮処分の対象となつている謄本四通と写し二四枚昭和五四年(ネ)第三〇八〇号不動産仮処分異議控訴事件の判決写し七通提出します。

よくお調べになつて公正な判断による判決をお願い致します。

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